【ロシアIT】なぜロシアでAI開発が盛んなのか考察してみた (前半)

皆さん、こんにちは。テクノソリューションです。

最近、「AI」という言葉を聞かない日がないほど、AIが一般的になったと思います。 スマホ内のAIアシスタントや、スマートスピーカー、他には画像認識アプリなど、いつのまにかAIに囲まれた環境になっていましたね。

最近では、FaceAppという画像加工アプリが人気なようですが、実はこのアプリ、ロシア製だということを知っていましたか? 他のロシア発のAIの中にも、世界的な評価を受けているものが多いです。

では、なぜロシアのAI技術は優れていると言われるのでしょうか。このブログで、その理由を考察していきたいと思います。

ロシアAIの現状

ロシアAIの現状から見てみましょう。まずは、海外とロシアの比較です。

 現在、米中がAI技術競争の首位を争っていますが、ロシアはどうでしょうか。 世界的なAIカンファレンスの「神経情報処理システム学会(Neural Information Processing Systems: NeurIPS)」と「機械学習に関する国際会議(International Conference on Machine Learning: ICML)」の分析に従い作成されたランキング[1]によると、ロシアは、2019年にAI領域で活躍する地域ランキングと、国ランキングでそれぞれ、11位、18位というスコアをとっています。また、企業ランキングでは、検索エンジンを提供する「Yandex」が世界第12位でした。他には、ロシアの軍事AI技術がアメリカのものを抜かしたかもしれない[2]というニュースもあります。記事によると、2019年現在、アメリカは自動操縦の戦車や武器の開発をしているなか、ロシアはすでに自動戦車の実験をしており、また、人工知能を搭載した原子力潜水艦の開発を進めているところであるそうです。

 次に、ロシア国内についてです。プーチン大統領が2017年に学校に向けて「AIの分野でリーダーになれる者が世界のリーダーになれる」と発言[3]したことから分かる通り、人工知能開発へ前向きな姿勢がわかります。2019年10月には、「2030年までの国内AI成長戦略」を発布[4]しました。そのため、今後の人工知能に関する研究開発へのさらなる支援が期待できます。

 これらのことから、ロシアのAI技術に注目する理由がわかってきたのではないでしょうか。 では、なぜロシア人工知能に高いポテンシャルがあるのでしょうか。その理由は、「高い数学・教育レベル」と「政府による強力な支援」の2つが主にあると考えます。

数学とIT教育エコシステム

 まずは、ロシアは伝統的に数学に強い国であることが、優れた人工知能技術の1つ目の理由だと思います。高校生を対象にした「世界数学オリンピック (International Mathematics Olympic: IMO)」での金メダル獲得枚数は、ソ連・ロシア合わせて、計176枚で、世界1位です[5]。また、アメリカのクレイ数学研究所が掲げるミレニアム懸賞問題の1つ、「ポアンカレ予想」を証明したグレゴリー・ペレルマン (Григорий Перельман)もロシア人です。さらに、現代統計学を作り上げたアンドレイ・コルモゴロフ (Андрей Колмогоров)や、確率論・解析学で活躍したアンドレイ・マルコフ (Андрей Марков)など、統計学や確率論の教授が多い傾向にあります。

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 IT教育エコシステムが整っていることが2つ目の理由だと考えます。ロシアでは、小学生からIT教育が始まります。リテラシーからプログラミングやアルゴリズムなど技術的なことまで幅広い分野の学習しています。大学受験でも情報系の学部に入るためには、情報科学の試験を受けなければなりません。このように、教育機関のIT教育基盤が十分に構築されています。さらに、政府系のイノベーション機関を中心とし、学術機関・研究機関・一般企業をつなぎあわせるITエコシステムが完成されています。そのため、学校や大学で研究したことをすぐに、一般向けのサービスとして活用することができます。

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 このように伝統的に数学が得意であることや、ITエコシステムが整理されていることが、レベルの高いAIの研究開発を推し進め、発展させていくことに繋がっているのではないでしょうか。

政府によるIT・スタートアップ支援

 教育・学術的な理由以外にも、ロシアでAI開発が盛んな理由があります。それは、政府による支援です。例えば、ロシアにはITスタートアップへ資金や、オフィス、コンサル、開発等の援助をする国立の施設が多くあります。その中でも特に大きいものが、モスクワにある「スコルコヴォ (Сколково)」です。スコルコヴォは、ロシア版シリコンバレーとも言われる場所で、研究機関、大学、インキュベーション施設等が揃う、巨大なIT都市です。スコルコヴォの他にも、各州や地域には「テクノパーク (Технопарк)」と呼ばれるイノベーションセンターがあり、アクセラレーション、インキュベーションサービスなどを提供しています。

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スコルコボ (Сколково)
(引用:https://old.sk.ru/news/b/news/archive/2017/03/20/ic-skolkovo-priznan-odnim-iz-luchshih-futuristicheskih-megaproektov-goda.aspx

 これらのイノベーション施設を裏で支えるのが、国主導のデジタル経済戦略です。国際競争力の強化を目的に「IT教育」、「インフラの整備」、「標準化・規制」の3つに力を入れ、資金の支援や法整備をし、強力なエコシステムの開発を推し進めています。そのエコシステムの中では、産官学の間で技術や人材等の横断が常に起こっており、研究機関の最新の結果を製品に利用したり、専門とは違う技術に容易にアクセスできたりすることが可能です。

 これらの国によるイノベーション施設やIT戦略も、ロシアのAI技術のレベルをお仕上げている要因の1つであると思います。


後半へつづく


参考資料

[1] AI Research Rankings 2019: Insights from NeurIPS and ICML, Leading AI Conferences
[2]Commentary: Are China, Russia winning the AI arms race?
[3]ロシア・プーチン大統領、AI技術力の強化を主張:2030年までに人間の知的活動と同等に
[4]Путин утвердил стратегию развития искусственного интеллекта до 2030 года
[5]International Mathematical Olympiad - Results